崖の上の仙境「望仙谷」現代に残る桃源郷の村 江西省上饒市

いくつもの峡谷を越え、何本もの滝を濡れながらも抜け、絶壁に沿って自然が作り上げた天然の階段を額に汗をかきながら通り過ぎると、山野の中の小村がまぶたに映る。すると、まるで鬱蒼とした柳の中に花がぱっと明るく咲いたような安堵感が身を包む。ここは江西省上饒市望仙谷、山谷の中の「桃源郷」である。

地殻運動により、ここでは断層地塊が聳え立ち、山体が急激に反り立っている。岩石はその重力により落ち着きが悪く、急傾斜の断裂や節理に沿って崩落が発生している。長い時間を経験しつくしたことで、江西省の霊山北麓には、人里離れて天に聳え、人を寄せ付けないほど深い、そんな絶景奇観が数多く形成されている。望仙谷を訪れれば、なぜ江西の山々が古代の高雅の士たちにとって理想の隠居の地とされたのか、理解できるはずだ。

望仙谷の起源は東漢、始まりは三国時代で、93万平方キロメートルを管轄していた。伝えられているところによれば、東漢の末、著名な隠士である胡昭がここで修行し、仙人になったという。「望む仙谷」という名は彼の身内が毎日、谷にある小村から山の頂を眺め、彼の痕跡を追ったことからついた。のちに周辺に観光興業が興り、町の経済も急激に発展したことから、望仙谷はだんだんと寂れていった。しかし2011年になって、80年代生まれの青年数名が村おこしの夢を胸にやってきて、十年近い時間をかけ、今日私たちが目にするような望仙谷が完成した。峡谷の「懸崖民宿」と江西の趣き溢れる民俗体験のおかげで、ここは自然の山水と歴史文化が輝くリゾート地へと姿を変えたのである。

懸崖と飛瀑:仙人たちの夢の世界へ

伝説では上古の時代、大洪水が起こった。そのとき、白鶴が野生の果実を加えて飛んできて、崖の上に取り残された村人たちを助けたという。「白鶴崖」という名はここからついたものだ。白鶴崖は高さは垂直110メートルあまり、昔の賑わいを取り戻すため、崖の上には12棟の空中ガラス・ルームが建てられており、渓谷全体や遠く霊山の尾根を見渡すことができる。懸崖レストランで食事したり空中図書館で本を読みながらゆっくりと過ごしたりと、ほかでは味わうことができない体験ができる場所だ。

懸崖の向かいにある滝も非常に壮観だ。空へと伸びる白い絹のようであり、壁に掛かった銀の緞子のようでもあるそれは一時も固定されることなく、深い渓谷に変化に富んだ景色と静謐さとを与えている。滝は白鶴崖と互いに引き立てあい、見る者を一秒で仙人仙女たちが住む夢の世界へと引きずり込む。身に迫る飛瀑、背後にひっそりとたたずむ林、谷間の渓流、そのどれも仙気が飛び交うものだ。空中を旋回しながら飛び去っていく鷹にもときおり出会うことができる。

桟道と漂流:山間の野趣を体験する

片側は切り立った崖、もう片側はさらさらと流れる渓水、そんな桟道を歩くと、望仙谷の趣を飽きるまで味わうことができる。桟橋の上から下を眺めると、現地の人から「三口鍋」と呼ばれている3つの甌穴が織り成す奇観を見ることができる。聞くところによると、明朝の大預言者である劉伯温はここを訪れたとき、両側の崖が険しくそびえ立っていてこれ以上進めないのを見て、金銀財宝をここに埋め、絶壁の上に「日照観音、白銀黄金摩崖石刻」と残したとされている。

もし刺激がお好みなら、長さ2.8km・落差185mの川下りを体験してみよう。「三湾四潭」(3つのカーブと4つの溜まり)を通過する90分間、ずっと興奮しっぱなしに違いない。

土壁と雅な橋:山里の建築の美学

「青レンガに黒瓦の馬頭壁、高く取り付けられた飾り窓」。望仙谷の建築は江西東北部に住む人々の伝統的な建築方法を踏襲している。土を固めて作った大きな夯土壁、砕石壁が木の小窓と合わさって、素朴ながらも優雅である。

望仙谷でいちばん人気の必見スポットである石造りのアーチ橋「攬月橋」には深い味わいがある。「蝉の声が響くほど林は格別に静けさを増し、鳥が高らかに鳴けば山はさらにしんとする」。攬月橋に立てば、初夏を詠ったこの詩の境地をより体得できるはずだ。

夜、攬月橋の上に立って家々の光を見るのも味わい深い。光が山間に点々とし、望仙谷全体が数えきれないほどの星できらきらと光り輝く。

古鎮の路地で江西の民俗を体験する

望仙谷は山野の制限を受け、両脇に渓谷が広がっているが、混じりっけない江西村落が形成されている。民俗風情にしても絶品グルメや芸術文化にしても、ここではそのどれもが江西の特色を備えている。江西の民俗について理解したいなら、ぜひ聚仙劇台に行ってみよう。ここでは毎日違った戯曲が演じられていて、伝統的な戯曲を通じて現地の民俗風情を理解することができる。午後3時30分からは古劇台で古代人の婚礼が全行程、進行形式で演じられる。

パフォーマンスを見たあとは、正真正銘の江西グルメで五臓六腑を癒そう。百味街や楊家食府には灯盏粿、油条麻子粿、山鶏腿、芋芋餃など、バラエティに富んだ本場上饒の食べ物が揃っている。また、鳴蝉巷と霊光街には草木染、竹ヒゴ細工、石彫りなど、上饒当地の非物質遺産である手芸品の数々が集まっている。不思議な工芸品店と上饒の非物質遺産はきっとあなたに創作体験の楽しみを味わわせてくれるはずだ。夜になったら飾り提灯を買って、片手に下げながら古鎮を歩いてみると、昔にタイムスリップしたような気分になること間違いない。ほかにも、望仙谷ではキャンプやキャンプファイアー、マーダーミステリー、不定期に開かれる漢服&祭日活動などがあり、あなたの体験を心待ちにしている。この夏はぜひ望仙谷で会おう!

—「聡明なお嬢様」より

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