羊肉しゃぶしゃぶ、北京の冬の伝統グルメの楽しみ方

冬になると、北京人は羊肉のしゃぶしゃぶを食べようとする。このために、北京の人々は1年我慢してきた。他の3つの季節では食べられないわけではないが、実は北京人の中ではそれなりのこだわりがあるのだ。昔ながらの北京伝統では、冬が深まり、雪や寒さが厳しくなる中、火鍋で羊肉を食べることこそが「季節に応じて食す」ということである。

羊肉のしゃぶしゃぶ鍋で冬を迎える

羊肉のしゃぶしゃぶ鍋で冬を迎えるのは、北京人が冬に対する最低限の尊重である。こういう食べ方は、元朝に都を北京に定めた頃からあったといわれている。少なくとも1000年の歴史はあるだろう。しかし、清の時代までは、羊肉しゃぶしゃぶはずっと宮廷料理である。清の中期くらいになって、羊肉しゃぶしゃぶは初めて深い宮廷から民間に入り、北京人が冬で一番捨てがたい料理になった。

当時、一般の家庭にとっては、羊肉しゃぶしゃぶを食べるのは容易ではなかった。しかし今はすっかり変わった。天気はちょっと寒くなると、「東来順」、「南来順」、「南門しゃぶしゃぶ」のような羊肉しゃぶしゃぶを名物としている店は、早くから大勢の人が集まってくる。天と地はひんやりと寒く、万物が凍み、真っ赤の炭火の上にある銅の火鍋に赤と白が互い違いになった羊肉をゆすぎ、平淡な世間話をしたり、心が温かいお酒を飲んだりするのは、すでに北京の人々の日常に深く入り込んでいて、都である北京の独特な風景になっている。

小さな銅鍋、大きなこだわり

もちろん、他の地方でもしゃぶしゃぶはあるが、北京のしゃぶしゃぶだけが絶品になった。そんな素朴で平凡なしゃぶしゃぶだが、冬の都の美食界でトップの座に上り詰めたのは、こだわりがあるからだ。

羊肉しゃぶしゃぶにこだわっているのは、まずはお肉だ。北京のしゃぶしゃぶ鍋に入れるのは、多くの肉から選んだものだ。一番いいのは内モンゴル集寧区の小尾羊で、しかも必ず去勢された雄ヒツジである。この羊の肉はきめが細かく、肉質も柔らかく、食感もさっぱりしている。

羊肉しゃぶしゃぶを食べるとき、北京の人は切りたてにもこだわっている。達人は肉を切るとき刀のふるまいも飛ぶように早く、平置きの形も巻きの形もあり、さらにそれぞれの部位もある。しかも肉をしゃぶしゃぶするときは必ず銅鍋を使うのだ。銅鍋は熱伝導が早いため、しゃぶしゃぶでできた羊肉もより柔らかい。このために、銅鍋には必ず炭火を燃やさなければならない。昔は梨の木の炭を使い、その香りで羊肉の生臭さを消す方法もあったが、今はそこまでこだわっていない。かといって、アルコールや電磁調理器などを使うわけにはいかない。もちろん、羊肉の爽やかな香りと柔らかさを引き立てるために、スープにもこだわりがある。白湯に生姜の薄切りやネギの段切りを加えるのが一番いい。清湯スープこそが北京しゃぶしゃぶの真髄だ。

さらに、タレにもこだわりがある。ニラ、腐乳、ゴマだれは必須だ。タレを調合するときは、お湯で少しずつ薄くする必要がある。また、羊肉しゃぶしゃぶを食べる時は、羊肉を小皿に入れてタレをかける。これは羊肉にあるスープがタレの味を薄くさせ、しゃぶしゃぶの羊肉の食感に影響を与えないようにするためである。

しゃぶしゃぶの全過程には、あらゆる種類の精緻と淡泊で清雅なこだわりが満ちていて、まるで大芝居のようだ。よく考えてみれば、どうしてこのしゃぶしゃぶで当時世の中を見慣れた宮廷の人々を感心させることができるのか、どうしてこの羊肉しゃぶしゃぶが北京の人々に一年中気にかけられるのかが分かる。

しゃぶしゃぶで日常的な北京城が見える

昔の北京では今でもはっきり話せる人はあまりいないが、最初の羊肉しゃぶしゃぶの店なら言えるだろう。それが前門通りにある「南恒順羊肉館」だ。自分で羊肉しゃぶしゃぶを作ると言うなら、北京をよく知る人はきっと「本物の羊肉は牛街に行くべき」と指摘するだろう。牛街は北京で有名なグルメ街で、昔から北京の牛羊肉が一番美味しいところで、たくさんの牛羊肉店が集まっている。

羊肉しゃぶしゃぶが北京で残した印は、これらのほかに、今では四九城でよく知られているたくさんの羊肉館がある。しかし、本当の印は、北京と北京人の精神に残っている。この羊肉しゃぶしゃぶにして言えば、北方都市の荒々しさもあれば、宮廷文化の繊細さもある。屋敷の中のこだわりも含めば、市井の中の閑散もほのめかしている。そのこだわりが、食べることを満腹だけでなく、精神的な追求、生活の楽しみにしている。このような穏やかで淡白で品位を求める態度は、北京人の性格を養った。羊肉しゃぶしゃぶほど北京を知るものはないと言えるだろう。

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