中国四川省南充市の魅力、シルク文化とグルメで彩られた歴史の秘境

もし四川を旅行先として考えるなら、成都、楽山、自貢、盧州、攀枝花、そして近年有名になりつつある理塘など、西部や南部の非常にホットな目的地が人々の心を惹きつけるだろう。では一方、控えめな北東部ではどんな「秘宝」が発見されるのを待っているのだろうか。その答えはそう、南充である。

ぱっとしない南充だが、実は生活の奥深さが潜んでいる/視覚中国

脈々と続く古代の響きとシルク

「南充」の二文字は古くからその歴史の中に見え隠れしてきた。春秋時代、南充の一帯には「充国」があり、この充国の南部に位置することから「南充」という名がついた。この古城は、巴鼓象舞、南部傩戯、川北灯戯、牛灯竹馬など、2000年余り前の巴人文化を保っている。その悠久の歴史と文化は古代から蘇軾、杜甫、陸遊などの詩人を惹きつけ、彼らは巴蜀の重鎮を巡ったのである。

閬中古城は歴史を通して四川北部の重鎮であり続けた/視覚中国

南充は古くより人材を輩出してきた。『保寧府志』の記載によると、閬中の地だけでも116人の進士を出しており、挙人(科挙試験の郷試に合格した者)は404人に上ったという。『三国志』の作者である陳寿も南充の出身である。南充と三国志はほかにもいくつか縁がある。たとえば張飛は閬中(南充の県級市)に7年も駐留した。また、三国~西晋時代の史学家陳寿はこの地で10年の年月を費やし『三国志』を記し、南充の「三国文化の源」としての地位を打ち立てたのである。

中古城の風水は吟味の価値ありだ/視覚中国

しかし中国の内外で南充の名を真に揚げたのはシルクである。南充の主な地形は赤土からなる丘陵であり、十分な雨量もあって、まさに蚕織のための土地である。唐・宋の時代、南充の「花紅綾」は一時大いに名を上げ、人づてにあちこちへと伝わり、多くの国で売られた。現在でも私たちは日常生活の中で変わらず南充市民のシルクへの気持ちを感じることができる。カイコに関連する地名だけでも、たとえば桑園路、繭市街、絲綢路、絲綢城など、南充には数十か所存在する。養蚕と交易による繁栄と、南充の街の過去1000年の発展史、そして巴蜀地区の人々の生活史が、この小さな町に数多くの風俗の遺物を残しているのである。

南充はシルク文化発祥の地の一つである/視覚中国

本場のグルメを舌で味わう

もちろん、南充について紹介するに最も値するのは、もう一つの別称である「果城」である。すでに夏王朝の頃から「果氏之国」だった南充は、2000年余り前にはミカンの栽培が始まっていた。嘉陵江の肥沃な土と十分な降水量、それに過ごしやすい気候は南充の柑橘類の実を大きく、皮を薄くし、柔らかな口当たりで、すっきりと甘く豊かな後味へと育てる。南充の柑橘類の種類は86種にも上る。春見、大雅、沃柑、血橙、西鳳臍橙などは全て南充の「作品」である。

なかでも西鳳臍橙は最大である。色合いは橙色で、楕円形をしており、果肉はサクッとジューシーで種や滓がない。一口噛みしめると果汁が口中にじゅっと飛び散り、甘みの中にもわずかな酸味が爽やかさをもたらす。

柑橘を食べるなら南充を忘れるなかれ

街中に漂う甘く爽やかな果物の香りを嗅ぎながら悠々と流れる大河を眺めると、南充人の胃袋は知らず知らずのうちに目を覚ます。南充人は一杯のビーフンと共に早朝を迎える。南充ではビーフンは「食べる」のではなく「飲む」という。この「飲む」という単語にも、南充人の豪胆で細かいことを気にしない性格が表れている。ずるっとビーフンを喉に送り込み、肉のみじん切りと共に、骨から取ったスープを大きく一口飲み干せば、ネギの香りと肉の香りが口の中に充満し、身体の底から爽快さを感じることだろう。

街中で呼び売りされている川北涼粉は一番の垂涎ものである。川北涼粉は原料に極めてこだわっていて、四川北部高山地区の赤エンドウしか使わない。また、さらなるグルメの芸術であるラー油は咽たりすることもなく、しっとりとした食感であり、唐辛子の香り溢れる辛さのなかにも微かな甘みがある。このラー油を涼紛に混ぜて食べると、「少ないことは豊かである」という言葉の意味が深く理解できるだろう。

シンプルな一碗の営山涼麵こそは四川北東部の飲食の神髄を表すものだ。茹でたあと広げて冷ました麵の上に、スパイス香り、オレンジ色の光沢ある皮を纏った楊鴨子(アヒルの醤油煮)を乗せれば、骨さえ捨てるのが惜しいほどの美味しさである。

ほかにも、南充ではグルメを食べることは即ち「歴史を食べる」ことであり、一品一品が「非物質文化遺産」である。『天府旅遊美食名録』に登録されているグルメのうち、南充からはゆうに33品ものグルメが選ばれている。誰もが知る張飛牛肉は、干し肉であるにもかかわらず硬くなく、外は黒く内は赤く、三国志の猛将張飛に似ている。また、高坪辣子鶏、南部肥腸、臥龍鲊、方酥鍋盔、西充銅火鍋など、これら定番グルメの一品一品に客は思わず親指を立てることだろう。

嘉陵江の畔には千年の歴史が沁み込んでいる。ここでは巴蜀文化と中原文化が互いに引き立て合って南充を調合しているのだ。南充は控えめでパッとしないが、その心地よく楽しい気質こそが、この地に住む人々に生活を愛させる独特な魅力なのである。

—「黄加宝」より

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