山東省済南市、街中に溢れ出る天然の泉

初めて済南を訪れる人にとって、ここの一番珍しい光景は、民家の敷地内に星のように数多く点在する天然の泉ではなく、古くから済南に住んでいる現地の人々そのものだろう。水汲みのための長い列に並ぶ人もいれば、縄で括ったプラスチック製の水筒やバケツで泉の水を汲む人もいる。その壮観な光景は、さすが唯一無二の「泉の街」だけある。

济南大明湖超然楼の景色/視覚中国

泉水を飲む――済南人の欠かせない信仰

より早く真の済南の街を知るためにはどうすればよいだろうか。もしその気があれば、ボトルを2本持って済南人と共に泉に行き、水を汲んでみてほしい。というのも、これこそ済南人との距離を最も縮めることができる生活スタイルだからである。

青島人がビールを手放せないように、済南人は泉の水なしではいられない。彼らにとって泉水はまるで日々の呼吸のように自然な存在なのである。水汲みは人々の生活習慣の中にすっかり溶け込んでしまっている。だから、世の中がどう変わろうと、どの時代の済南人も変わらず瓶や缶を下げて泉に行き、水を汲んできたのである。

黒虎泉公園で水を汲む済南の人々/図虫創意

泉水は済南人の生活の源である。直接飲む以外にも、この地に住む人々は夏は冷たく冬は暖かい泉の恩恵を受けてきた。例えばここの人々は、炎天下の夏は泉でキンキンに冷やした野菜や果物を齧り、冬には降雪に乗じて済南泉水プールに行って寒中水泳を楽しむのである。

済南泉水プール/図虫創意

昔、済南の泉の畔には多くの茶屋があった。泉の水で淹れたお茶は芳醇な味わいで色は鮮やかだった。済南人にとってはコーヒーよりも泉の水で淹れたお茶のほうが人気なのである。

済南の泉の畔に佇む茶屋/図虫創意

済南の泉の素晴らしさとは?

済南のように泉水が街中を巡る街は、中国では他にはない。街と泉水はともに生まれ、ともに育ってきた。山に靠れ水を抱くこの街の地形は、古くから潤沢な泉水を恵んできた。こうして、北方の都市である済南の街中には、江南に負けない生き生きとした気質が息づいているのである。

済南に来て名泉を鑑賞しないようでは、無駄足を運んだと言わざるを得ない。旧市街地の四大泉である趵突泉、黒虎泉、珍珠泉、五龍潭は最も有名だ。趵突泉は済南に集まる泉の筆頭格で、専門家の正確な推定によると、この泉の「泉齢」は約2万3500歳〜4万6000歳だというから、なんとも驚きである。

天下一の泉、趵突泉/図虫創意

趵突泉の最も有名な光景と言えば、「沸き立つ三筋の水」の右に出るものはない。泉の底岩の隙間を縫うようにして吹き出した三筋の水が水面に沸々とする様は絶景である。

とは言え、済南市民の寵愛を最も受けている泉は黒虎泉である。寒い冬でも酷暑の夏でも、ここでは常に市民たちが列を作って水を汲んでいる。済南の最も身近で親しみやすい市井文化を代表する場所、黒虎泉である。

巷の雰囲気がもっとも溢れる黒虎泉/図虫創意

深窓で大切に育まれた珍珠泉には、耳元でやさしく囁く歌声のような婉曲した美がある。くっきりと透き通った泉の水がゆっくりと流れていく様子は、真珠のネックレスが散らばっているようで、物静かな境内を散歩すると、心が限りなく満ち足りることだろう。

上品で活き活きとした珍珠泉/図虫創意

他の泉と比べて言うと、五龍潭の28の古泉には古めかしく飾り気がない優雅さがある。泉の畔の枝垂れ柳と周囲の園林、そして潭西詩社が一体となり、古めかしくも雅な光景を織りなしている。

古めかしく雅な五龍潭/図虫創意

名泉の他にも、多くの泉の水が流れ集まってできた大明湖は、湖面が藍緑で、古くからハスが茂り、湖畔には枝垂れ柳が風になびいており、「泉城の真珠」の呼び名を持つ。

秋の大明湖の絶景/図虫創意

泉の水で潤う街

済南人は泉をまるで命のように大切にしている。過度な地下水資源開発を避けるため、済南政府は泉を保護するための一連の施策を行っている。済南人がこうして自分たちの泉を大事にしているからこそ、泉からは滔々と湧水が溢れ、「清泉の街」は絶え間なく続いていくのである。

泉の水は済南人にとって失うことができない一番大切なものである/視覚中国

水に生かされている済南人は、その時々に応じた季節の風物をよく理解している。早春の「食柳」は柳の新芽を食す風習で、黄色く瑞々しい柳の芽にはまたとない味わいがある。盛夏の「炸荷花」(蓮の花の姿揚げ)、蓮の葉で米と豚肉を包んで蒸した「荷葉肉」は、蓮の香りがほのかに香り、甘くサクっとした触感が楽しめる。また、咀嚼するとその脆さが心地よいレンコンは、数多くの家で家庭料理の食材として食卓に上る。初冬の入りには、泉水豆腐の店が大通りから路地裏まで姿を見せる。熱々の泉水豆腐は純白かつきめこまやかで、しっかりとしていてぷるりと弾力があり、その香りは長く残る。

済南の泉水は、ただ単に街中を巡って流れているだけではなく、済南人の飲食風習にまで影響を与えている。泉の水が育んだ食べ物はまた、済南独特の宴席「泉水席」を形作ることになるのだ。

済南の街の景色/図虫創意

済南の古い路地にある茶店に入って、優しく爽やかな泉水茶を品定めし、ぼこぼこという泉の水を聞きながら、日々の流れをゆったりと感じてみよう。そすすれば、ひょっとしたらあなたも済南人が泉を命のように大切にしている理由が分かるかもしれない。彼らにとって泉は生活の源だから、何が何でも失うことができないこだわりなのである。

—「九行・黎二千」より

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