成都にてゆっくりと巡るの完全ガイド

中国五大懒城というものがある(懒とは「怠ける」の意)。いちいち見るまでもなく、そこに成都が含まれているのはすぐ察しがつく。もちろん、ここでいう「懒」とは、そこの人びとがものぐさで怠け者であるという意味ではない。そうではなくて、誰もが認める「懒城」として、成都にはいくつもの種類の不思議な魔力があるということだ。この街に足を踏み入れさえすれば、そのあまりの楽しさのあまりに時間は2倍速で流れ、心は満ち足り、知らず知らずのうちに一日を「消耗」してしまう。無邪気さがとても可愛らしいジャイアントパンダ、のんびりと快適な茶屋、数えられないほどの四川風のおかしやスナック軽食類、いつまでも列が絶えない火鍋串串……成都という名を聞いてしまうと、停まろうと思ったところですでに停まれないのだ。

01路地の街、成都

寛窄巷子はもっとも成都らしいと称される場所だ。ここはたいてい観光客がいちばん多い場所でもある。しかし不思議なことに、人がどれだけなだれ込んでも、この路地が発している成都の立ち振る舞いが取り乱されることはない。ゆったりとして、過ごしやすく、生活は緩慢である。浮ついた喧騒に気分が落ち着かなくなるなんてことは一切ない。むしろ市井の歓楽に満ちていると言っていいほどだ。

錦里は三国文化と成都の民間の習俗・風習を支えている商業街だ。商業街と言っても、その言葉からイメージするようなちゃらちゃらと飾り立て雰囲気はここにはない。あるのは日常的な親しみやすさだ。昔ながらの成都の扉を開き、通りの中へと入り、一歩進むたびに、その純粋さや人を惑わす魅力によりいっそう深く近づいていくのだ。茶楼、旅館、飲み屋、舞台、当地ならではの食べ物、工芸品、特産品など、この通りには成都生活の真髄が濃縮されている。成都の特色ある体験をしてみたいなら、この通り一本で十分あなたを満足させてくれるはずだ。

春熙路は成都の代表的な大通りだ。百年の歴史があるここは、成都でもっとも古い商業街のひとつである。上海の南京路、北京の王府井に相当するここは、いまではすっかり成都の代表である。

02時代の街、成都

黄龍渓は市内からそう遠くない千年の古鎮だ。1700年あまりの歴史を持つここでは、古い牌坊(寺や墓などの入口に作られる屋根付きの門)や寺廟、古民家、それにガジュマルの古木が渾然一体となっている。通りに敷かれている青石板には時代の色と香りを感じる。くねくねとした古い山間の石道を歩くと、四隅の角が反り返ったひさしを持つ、木造の吊足楼(四川や重慶でよく見る建築様式)や、街の茶楼の賑わい、古廟の大地からゆらゆらと立ち上る靄が目に入る。これこそ四川の古鎮ならではの味わいだ。

武侯祠は中国で唯一の主人と家臣が合祀された祠廟であり、きわめて名声が高い諸葛亮と劉備、および蜀漢の英雄たちを記念する場所だ。同時に、ここは全国最大の影響力を有する三国遺跡博物館でもある。ここの赤墙挟道は現在、必見スポットとしてネット上で大人気であり、記念撮影をする大勢の旅行客を呼び寄せている。

杜甫草堂は唐代の詩人杜甫が成都に滞在していたときの故居である。敷地が占める面積は約20ヘクタール、その古めかしく素朴な建築が優美である。庭園は清く静かで美しく、明・清の時代に拡張工事された時のレイアウトが完全に保たれている。現在の草堂は数え切れないほど作り直されてきたものである。敷地内にまんべんなく植えられた竹や草木花、それに四阿や小さな橋は、とっくに現代化された成都市内に佇むこの故居に貴重な清らかさや上品さを留めている。

03成都を体験してみよう

ぜひ人民公園に足を運んでお茶を味わってみてほしい。古くからの成都人にとって、ここに来たら必ずやることがある。お茶を飲むことだ。人民公園について知るだけで、「余暇の街」の正しい紐解き方を会得できるはずだ。成都人民公園の鶴鳴茶館はすでに百年近く営業してきた。一度に3000人を収容し茶を飲ませることができるここは、多くの成都人が一日を過ごしたことがある場所だ。お茶を一杯頼んだあとは、本を読んだりぼんやりしたり友達とおしゃべりしたりしながら午後をまるまる過ごしてみよう。すると、なんだ生活とはこんなにもシンプルで幸せなものだったのかと気づくはずだ。

成都に来て国宝を見ないなんてことがあるだろうか?ジャイアントパンダ繁殖研究基地では100頭あまりのジャイアントパンダを飼育していて、ここでは柵やガラス窓越しに彼らの生活を見ることができる。もし運が良ければ、出産ルームでさっき生まれたばかりの赤ちゃんパンダを見ることもできるかもしれない。

ここでトリビアを一つ。下の写真の右側に写っている「小熊猫」は成長してもこの姿なのだということをご存知でしたか?アライグマのようなこの動物は、子ども時代のジャイアントパンダ(大熊猫)ではない。学名はAilurus fulgens、日本でレッサーパンダと呼ばれるこの動物を中国人は「小熊猫」と呼んでいるのだ。ここまで来たからには、せっかくだから彼らにも会ってみよう

耳かきサービスを体験したことがない人生は魂を欠いている。成都に来て耳かき文化を体験しないようなら、それは無駄足だったと言ってもいい。他人に耳をほじられるのは怖いという人もいるが、それは考えすぎというものだ。ただ耳をほじっているようにみえるが、しかしじつは誰にだってできるようなものではないのである。耳かき職人には若い人がほとんどいない。長いキャリアを持たない未熟な技術では、誰だって他人に耳掃除なんてさせないのだ。専門の職人が、専門の道具で、専門の方法に基づいてサービスするからこそ、客は天にも昇るような心地よさを満喫できるのである。

04味の街、成都

ここ数年、中国のあちこちを回ってきたけれど、たくさんの外国人を虜にして「うまい」と拍手喝采させる中国グルメと言えば、絶対に四川料理が一番だ。

食前のウォーミングアップの冷菜――成都涼粉

良い香りがあたりに漂う――鉢鉢鶏

これこそ本場の味――冒菜

食後のデザートに――紅糖糍粑

一碗だけでお腹いっぱい――紅糖氷粉

成都のグルメはすべて食べきることができないほど多いのだ。

成都に足を踏み入れると、知らず知らずのうちに歩くペースが遅くなり、あたりの風景に意識が向かうようになる。成都人はまるで学生時代クラスに一人はいた、がりがりとは勉強しないけれどとても良い成績を収めるクラスメイトのようだ。この街は巨万の富や財を追い求めるなんてことはしないけれど、それでも失敗を恐れることもない。ここの土地は常に一種特別な包容感を感じさせてくれる。どこから来た人でも、どんな文化を持つ人でも、ここは歓迎する。しかしそれでいて自分を失うことは永遠にないのだ。ああ、成都に行きたくなってしまった。

—「環球旅行」より

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